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東京高等裁判所 平成元年(行ケ)18号 判決

東京都新宿区西新宿2丁目1番1号

原告

シチズン時計株式会社

代表者代表取締役

中島迪男

訴訟代理人弁理士

祐川尉一

同弁護士

木下洋平

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官

植松敏

指定代理人

桐本勲

松木禎夫

宮崎勝義

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和61年審判第5942号事件について昭和63年12月1日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和55年12月26日名称を「多数の組立ヘッドを有する自動組立機械」とする発明(以下「本願発明」という。)についての特許出願(昭和55年特許願第184078号)をしたが、昭和61年1月23日拒絶査定を受けたので、同年4月1日これを不服として審判の請求をした。特許庁は、右の請求を昭和61年審判第5942号事件として審理した結果、昭和63年12月1日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。

2  本願発明の特許請求の範囲の記載

〈1〉多数の組立部品を主部品の異なった多数の組付位置に組付ける自動組立機械(「自動組立部品」とあるのは誤記と認める。)において、

〈2〉主部品を保持してXY方向にNC制御されて移動可能なテーブルと、

〈3〉該テーブルのXY方向の移動範囲の上方にあって、それぞれ所定の異なった組立部品を供給して主部品上の異なった組付位置に組付ける多数の組立ヘッドと、

〈4〉該多数の組立ヘッドから選択された所定の組立ヘッドの座標位置と該所定の組立ヘッドによって供給組付けされる組立部品の主部品上の組付位置の座標とから演算して、主部品上の組付位置を組立ヘッドの下方に駆動制御するNC制御装置と、

〈5〉を有することを特徴とする多数の組立ヘッドを有する自動組立機械(符号〈1〉ないし〈5〉は便宜上付したものであり、以下において構成〈1〉〈2〉〈3〉〈4〉ともいう。)(別紙1参照)。

3  審決の理由の要点、

(1)本願発明の要旨は前項記載(昭和61年4月1日付手続補正による特許請求の範囲の記載に同じ。)のとおりである。

(2)原審の拒絶理由で引用した本出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭51-86883号公開特許公報(以下「第1引用例」という。)には、次の発明が記載されている。

多数のピンを基板の異なった多数の組付位置に組付けるものにおいて、基板を保持してXY方向に移動可能なテーブルと、該テーブルのXY方向の移動範囲の上方にあって、それぞれピンを供給して基板上の異なった組付位置に組付ける多数のヘッドと、基板上の組付位置をヘッドの下方に位置決めする手段とを具備するところの多数のヘッドを有する実装装置、すなわち、組立機械(別紙2参照)。

(3)なお、第1引用例に記載された発明におけるヘッド、ピン及び基板は、それぞれ本願発明における組立ヘッド、組立部品及び主部品に相当するものと認める。

(4)原審の拒絶査定において、本出願前周知である発明の例として引用した特開昭55-93299号公開特許公報(以下「第2引用例」という。)には、それぞれ次の発明が記載されている(別紙3参照)。

(a)ピン挿入装置用、すなわち、組立ヘッド用のものであり、マイクロコンピュータに指令された内容に基づき駆動されるパルスモータにより制御される2軸方向テーブル、すなわち、XY方向にNC制御されて移動可能なテーブルを具備した流れ作業装置、すなわち、自動組立機械。

(b)多数のピンをセラミック基板の異なった多数の組付位置に組付けるものにおいて、セラミック基板を保持して移動可能なパレットと、該パレットの上方にあって、それぞれ異なった組立部品を供給してセラミック基板上の異なった組付位置に組付ける多数のピン挿入装置とを具備した流れ作業装置。

(5)なお、第2引用例の(b)の発明におけるセラミック基板、ピン、パレット、ヘッド及び流れ作業装置は、それぞれ本願発明における主部品、組立部品、テーブル、組立ヘッド及び自動組立装置に相当するものと認める。

(6)本願発明と第1引用例記載の発明とは、次の相違点を除いて同一である。すなわち、両者ともに、多数の組立部品を主部品の異なった多数の組付位置に組付けるものにおいて、主部品を保持してXY方向に移動可能なテーブルと、該テーブルのXY方向の移動範囲の上方にあって、それぞれ組立部品を供給して主部品上の異なった組付位置に組付ける多数の組立ヘッドと、主部品上の組付位置を組立ヘッドの下方に位置決めする手段とを具備するところの多数の組立ヘッドを有する組立機械である点において同一である。

(7)相違点1 主部品を保持してXY方向に移動可能であり、多数の組立ヘッドによって供給組付けされる組立部品の主部品上の組付位置を組立ヘッドの下方に位置させるテーブルについて、本願発明においては、多数の組立ヘッドから選択された所定の組立ヘッドの座標位置と該所定の組立ヘッドによって供給組付けされる組立部品の主部品上の組付位置の座標とから演算して、主部品上の組付位置を組立ヘッドの下方に駆動制御するNC制御装置によりNC制御されるテーブルとしたのに対して、第1引用例に記載された発明においては、組付位置を多数の組立ヘッドの内から選択されたところのものの下方としたものではなく、NC制御装置によりNC制御されるテーブルとはしていない点。

(8)相違点2 多数の組立ヘッドについて、本願発明においては、それぞれ所定の異なった組立部品を供給するものであるのに対して、第1引用例に記載された発明においては、必ずしも異なった組立部品を供給するものとはしていない点。

(9)相違点1についての判断

第1引用例及び第2引用例の(a)の発明は、ともに組立機械に属するものであり、かつ、そのテーブルが、主部品を保持するためのものであっても、組立ヘッド用のものであってもそれ自体の機能において格別の差異がないばかりでなく、転用するに当たっても別段の工夫を必要とするものではない。したがって、第1引用例に記載された発明におけるテーブルに替えて第2引用例の(a)の発明における組立ヘッド用のテーブルを主部品を支持するためのテーブルとして適用することにより、この相違点に掲げた本願発明の構成のごとくすることは、当業者が容易に想到することができたものである。

(10)相違点2についての判断

第1引用例及び第2引用例の(b)の発明は、多数の組立部品を主部品の異なった多数の組付位置に組付けるものにおいて、主部品を保持して移動可能なテーブルと該テーブルの上方にあって、それぞれ組立部品を供給して主部品上の異なった組付位置に組付ける多数の組立ヘッドとを具備した組立機械である点で共通するものである。したがって、異種類の組立部品を組付ける課題についても当然に設定できるものであり、かつ、第1引用例に記載された発明における組立ヘッドに替えて第2引用例の(b)の発明における組立ヘッドを用いるに当たり格別の工夫を必要とするものではない。よって、この相違点に掲げた本願発明の構成のごとくすることは、当業者が容易に想到できたものである。

(11)そして、本願発明を全体としてみても、第1引用例、第2引用例の(a)及び(b)の発明の有する効果の総和以上の新たな効果を奏するものと認めることができない。

(12)以上のとおりであるから、本願発明は、第1作用例、第2引用例の(a)(b)の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許をすることができない。

4  審決の理由の要点の認否

(1)審決の理由の要点(1)に特許請求の範囲の記載自体が掲記されていることは争わないが、要旨の解釈についてこれをそのまま要旨であると認定したことは争う。同(2)のうち、第一引用例に「それぞれピンを供給して基板上の異なった組付位置に組付ける多数のヘッド」及び「多数のヘッドを有する実装装置」が記載されているとした点は否認し、その余は認める。同引用例の装置は一つのヘッドしか備えていないものとみるべきである。同(3)は認める。同(4)の(a)のうち、「マイクロコンピュータに指令された内容に基づき駆動されるパルスモータにより制御される2軸方向テーブル、すなわち、XY方向にNC制御されて移動可能なテーブル」が記載されているとした点は否認し、その余は認める。同(4)の(b)のうち、「それぞれ異なった組立部品を供給してセラミック基板上の異なった組付位置に組付ける多数のピン挿入装置」とみた点は否認し、その余は認める。同(5)は認める。同(6)のうち、「それぞれ組立部品を供給して主部品上の異なった組付位置に組付ける多数の組立ヘッド」とみた点及び「多数の組立ヘッドを有する組立機械」とみた点は争い、その余は認める。同(7)のうち、「多数の組立ヘッドによって供給組付けされる組立部品の主部品上の組付位置を組立ヘッドの下方に位置させるテーブルについて、」とした点及び「組付位置を多数の組立ヘッドの内から選択されたところのものの下方としたものではなく、NC制御装置によりNC制御されるテーブルとはしていない点」は争い、その余は認める。同(8)のうち、多数の組立ヘッドについて、「第1引用例に記載された発明においては、必ずしも異なった組立部品を供給するものとはしていない点」は争い、その余は認める。同(9)の判断は争う。ただし、「第1引用例及び第2引用例の(a)の発明は、ともに組立機械に属するものであ」ることは認める。同(10)は争う。同(11)は争う。

5  審決を取り消すべき事由

審決は、本願発明の特許請求の範囲の記載のうち、前記構成〈4〉の「該多数の組立ヘッドから選択された所定の組立ヘッドの座標位置と該所定の組立ヘッドによって供給組付けされる組立部品の主部品上の組付位置の座標とから演算して、主部品上の組付位置を組立ヘッドの下方に駆動制御するNC制御装置」の技術的意義を正しく理解しなかったために、その解釈を誤り本願発明の要旨を誤認し前項のとおり本願発明と第1引用例記載の発明との対比認定を誤ったものであり、これが審決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は違法として取り消されるべきである。

(1)本願発明の技術的意義

(a) 別紙1により本願発明の特許請求の範囲の記載の技術的意義を説明すれば、以下のとおりである。

〈1〉多数の組立部品を主部品(プリント基板5)の異なった多数の組付位置(T0'T1'…Tn')に組付ける自動組立機械において、

〈2〉主部品を保持してXY方向にNC制御されて移動可能なテーブル3と、

〈3〉該テーブルのXY方向の移動範囲の上方にあって、それぞれ所定の異なった組立部品(異種異形の部品)を供給して主部品上の異なった組付位置に組付ける多数の組立ヘッド(H0H1…Hn)と、

〈4〉該多数の組立ヘッドから選択された所定の組立ヘッド(例えば、組立ヘッドH0)の座標位置(T0-X0Y0)と該所定の組立ヘッドによって供給組付けされる組立部品の主部品上の組付位置(T0)の座標(X0'Y0')とから演算して、主部品上の組付位置(T0')を組立ヘッド(H0)の下方に駆動制御するNC制御装置と、

〈5〉を有することを特徴とする多数の組立ヘッドを有する自動組立機械

(b) 構成〈2〉の「NC制御されて」というのは、構成〈4〉のNC制御装置によるNC制御(数値制御)であり、構成〈3〉の「テーブルのXY方向の移動範囲」とは、構成〈4〉のNC制御装置によってテーブル3がXY方向に移動する範囲のことである。そして、構成〈4〉の「組立ヘッドの座標位置」については、本願明細書の発明の詳細な説明欄に「組立ヘッドの位置は例えば区域Aの一隅0を原点として、T0(X0Y0)、T1(X1Y1)…Tn(XnYn)と表示することができる。」(4頁6行ないし9行)と説明されているのであるから、例えば、組立ヘッドH0の座標位置T0は、機械上の任意の点である0を座標原点とした座標X0Y0によって表示されるものである。つまり、それぞれの組立ヘッドの座標位置を示す座標の原点は0であることが明らかである。また、「主部品上の組付位置の座標」については、本願明細書には「一方、プリント基板5内の電子部品組付位置は、テーブル3上の原点0’を基準としてT0'(X0'Y0')、T1'(X1'Y1')…Tn'(Xn'Yn')と表示される。」(4頁9行ないし12行)と説明されているのであるから、例えば、プリント基板5内の電子部品の組付位置T0'の座標は、テーブル3上の原点0’を基準にした座標X0'Y0'で表示されるものである。つまり、プリント基板上のそれぞれの部品組付位置を示す座標の原点はテーブル3上の点0’であることが明らかである。要するに、多数の組立ヘッド(H0H1…Hn)のそれぞれの固定位置を表示するX軸及びY軸の座標値の原点は、機械上の任意の点0であるのに対して、プリント基板上の多数の部品組付位置を表示するX軸及びY軸の座標値の原点は、テーブル3上の点0’であると解すべきこと(それぞれ異なる座標原点をもつ座標系)は疑念を抱く余地のないところである。そして、テーブル3はXY方向にNC制御されて移動するものであるから、テーブル3上にある原点0’を座標原点とした座標系を移動座標系と称し、機械上に原点0有する座標系を固定座標系と称することができる。すなわち、主部品上の多数の部品組付位置を表示するための移動座標系は固定座標系内を移動する座標系である。次に、「演算して、主部品上の組付位置(T0')を組立ヘッド(H0)の下方に駆動制御するNC制御装置「とは、組立ヘッドから供給される組立部品を主部品上の組付位置(T0')に挿入して組付ける際に、主部品上に組付位置(T0')が組立ヘッドの下方に位置するように、テーブル3を移動させる駆動制御がNC制御装置によって行われるものであり、該テーブル3の移動量はNC制御装置の演算処理によって算出されるものであることを意味している。その演算処理の具体的内容については、本願明細書に「例えば、座標T0にあるヘッドH0による加工の時、メモリー13-0の記憶座標(X0Y0)が呼び出される、この座標値は演算システム16に送られ、ここで組立位置座標値メモリー9から呼び出された組立位置座標と加減算され所要のテーブル移動データ17が得られる。このデータに従ってテーブル3が移動される。例えば、ヘッドH0による加工の場合、テーブルはヘッドH0の位置に移動され、(X0Y0)を基準とした移動制御が行われる。従って、テーブル上の原点をヘッドH0の基準位置(X0Y0)に一致させた後は、その基準位置を原点としてテーブルを移動させればよい」(6頁9行ないし7頁1行)と説明されている。すなわち、主部品上の部品組付位置T0'T1'…Tn'は、それぞれ原点0’からの距離(X0'Y0')(X1'Y1')…(Xn'Yn')として表示され、既知であるが、原点0からの距離としては表示がなく未知であるから、例えば、組付位置T0'を組立ヘッドH0の位置(X0Y0)の下方に位置させるためのテーブル3の移動量を直接求めることはできない。そこで、本願発明においては、表示されている既知の座標値から間接的に前記テーブルの移動量を算出するために、NC制御装置内において前記のような演算処理を行うものである。このように、既知の座標値を加減算することによって、主部品上の組付位置T0'T1'…Tn'を選択された所望の組立ヘッド位置(T0T1…Tn)に一致させるためのテーブル3の移動量を算出することができるので、一つの部品を組付けるためのテーブルの移動をその移動量算出の演算処理の順序に従ってその都度移動させることなく、演算処理が完了した最終の演算結果値をテーブルの移動量としてテーブルを移動させると、テーブル移動は一回で済むことになる。したがって、本願発明の構成のうち、〈4〉は、「多数の組立ヘッドから選択された所定の組立ヘッド(例えば、組立ヘッドH0)の座標位置(T0-X0Y0)原点0を基準とする既知の座標位置の座標(T0-X0Y0)と該所定の組立ヘッド(H0)によって供給組付けされる組立部品の主部品上の組付位置(T0')の原点0’を基準する既知の座標(X0'Y0')とから、テーブルのX軸、Y軸方向のそれぞれの移動距離を演算し、演算の結果算出された移動距離だけテーブルを移動させることによって、主部品上の組付位置(T0')を組立ヘッド(H0)の下方の座標位置(T0)に駆動制御するNC制御装置」を規定したものと解することができるのである。そうであれば、その特許請求の範囲の記載にもかかわらず、構成〈4〉は、このような技術的意義を有するものとして解釈し、これに則った本願発明の要旨認定をすべきである。しかるに、審決は本願発明の要旨を特許請求の範囲の記載文言どおりのものとして認定したものであるから、要旨の認定を誤ったものである。

(c) 本願発明は、組立ヘッドの座標を主部品上の組付位置の座標のある座標系とは別の座標系に移して2個の座標系とし、NC制御装置に、これらの座標値に基づいた演算処理を行う演算手段の構成を具備させることによって、一座標系におけるプログラム作成の不都合を解決したという格別の効果を達成したものであるから、二座標系上にあるそれぞれの座標間で主部品の移動を制御するための演算処理をなすNC制御装置は不可欠の事項である。原告が、前項において、「主部品(プリント基板5)の異なった多数の組付位置」について、(T0'T1'…Tn')の符号を付して説明したのも、理解を容易にしたまでのことであって、これによって、被告の主張するに本願発明の〈4〉の構成に規定されたNC制御装置について、更に別の構成を付加したものではない。

被告は、本願明細書における「組立ヘッドの位置T0T1…Tnは機械固有のものとして座標T0'T1'…Tn'に加えてプログラム中に組込んでしまえば1個の座標系とすることができる」(4頁15行ないし18行)との記載を援用して、本願発明は2個の座標系を前提とするものとはいえない旨主張する。しかしながら、1個の座標系とする方法では、多数の組立ヘッドのそれぞれの座標を組込んだプログラムの作成が面倒になるばかりでなく、加工機が変わった場合、それぞれの加工機に固定した多数の組立ヘッドの座標T0T1…Tnも、固定するための取付誤差によって変わるので、加工機毎に、その都度プログラムを作らなければならないという不都合がある(本願明細書4頁18行ないし5頁2行)。そこで、右の不都合を解消するために前述のとおり2個の座標系によるNC制御を行うことにし、プログラム中には、組立ヘッドの位置座標をテーブル移動制御プログラム中に含めず、ヘッド選択指令データをプログラム中に含めることとし、その多数の固定した組立ヘッドの位置座標は機械に付属する固有のデータとして回路中に記憶させておき、ヘッド選択指令によりその選択された組立ヘッドの位置座標とプリント基板上の電子部品組付位置座標とを演算回路により加減算してテーブルの移動値を算出するようにしたものであり、本願発明の構成〈4〉は、このような演算処理を行うNC制御装置を規定したものである。

(2)  第2引用例は、本願明細書において従来例として紹介されている方法(2頁8行ないし17行)である。すなわち、「従来は、組立ヘッドを所定の位置に移動又は割出して位置決めし、これに対して一つの原点を持ってXY方向に移動可能なテーブル上にプリント基板を載置してNC制御装置などで移動制御して電子部品を組付ける方法」と変わらないものである。したがって、第2引用例のNC制御装置を第1引用例の組立機械に適用したとしても、プリント基板を載置したテーブルを一つの原点をもった座標においてXY方向に移動可能にしたNC制御装置となるにすぎない。してみれば、本願発明における構成〈4〉のNC制御装置の構成が、第2引用例に記載されているごとき一般的なNC制御装置とは異なるものであるのに、審決は、構成〈4〉の技術的意義の理解を誤った結果、構成〈4〉は一般的なNC制御装置を規定したものにすぎないとの誤った認定判断して、本願発明の要旨を誤認したものである。したがって、審決は違法として取り消されるべきである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の主張

1  請求の原因1ないし3の事実は認める。同5の主張は争う。審決の認定判断は正当であり、審決には原告主張のような違法の点はない。

2  被告の主張

(1)  本願発明の理解について

原告が、本願発明の技術的意義を別紙1により符号を付して説明することは誤りである。なぜなら、本願発明を構成する事項の一部として右の符号を付すことによって、本願発明を構成する事項である座標及び座標位置に特定の意味を付加させることとなり、座標を用いて制御している程度の構成(構成〈4〉の記載は、NC制御装置が座標を用いて制御するものであることを規定しているにすぎない。)しか具備していない本願発明を構成する事項の一部であるNC制御装置に更に別の構成を付加することとなるからである。すなわち、NC制御装置は、第2引用例にも記載されているごとく、座標を用いて制御することが一般的であるが、座標の用い方には、種々のものがあり、それぞれによって達成される効果が相違するものである。そして、本願発明の特許請求の範囲は直接的にも間接的にもこのような符号により特定されていないから、構成〈4〉の記載は、座標を用いて制御するという一般的なNC制御装置を規定したものと理解すべきであって、原告主張のように、原点0'を有する移動座標系(組付位置を表示する座標系)が固定座標系(原点0を有する機械上の座標系)内を移動することとし、これを前提とした演算処理を行うNC制御装置を規定したものとは理解できない。

(2)  原告は、構成〈4〉に規定したNC制御装置は、「多数の組立ヘッドから選択された所定の組立ヘッド(例えば、組立ヘッドH0)の座標位置(T0-X0Y0)の原点0を基準とする既知の座標位置の座標(T0-X0Y0)と該所定の組立ヘッド(H0)によって供給組付けされる組立部品の主部品上の組付位置(T0')の原点0’を基準する既知の座標(X0'Y0')とから、テーブルのX軸、Y軸方向のそれぞれの移動距離を演算し、演算の結果算出された移動距離だけテーブルを移動させることによって、主部品上の組付位置(T0')を組立ヘッド(H0)の下方の座標位置(T0)に駆動制御するNC制御装置」であると主張しているところ、本願明細書の発明の詳細な説明欄にはこのような演算処理についての記載がある(5頁5行ないし10行)が、特許請求の範囲にそのように特定して理解すべき記載のないことは前述のとおりであり、また、以下に述べるとおり本願発明の目的及び効果とされる事項からみても、右のような異別の座標系を前提として演算処理を行うNC制御装置と限定してみるべき根拠はない。すなわち、本願明細書には、本願発明の目的について「本発明は、組立ヘッドを任意の位置に固定し、テーブルのみを駆動制御するようにして、選択された組立ヘッドの位置を基準にしてテーブルを駆動制御することによって上記欠点を解消しようとするものである。」(2頁18行ないし3頁2行)と記載されているが、この記載は、一般的なNC制御装置の目的を述べたにすぎないものである。更に、本願発明の効果について「本発明によれば駆動源は軽量のプリント基板を載置するテーブルをXY方向に(移動させる)駆動源、例えば小型のパルスモータのみとなり、重量物である多数個の組立ヘッドを駆動し位置決めする必要はなくなり、更にクリンチ装置を設けるとしても、全部の電子部品に使用可能な汎用の複雑なクリンチ装置を使用することなく、必要な位置に必要なだけの機能を有する簡便なクリンチ装置を設ければよいなど、自動組立機械全の構成が非常に簡単なものになる。」(7頁4行ないし13行)と記載されているが、これも、一般的なNC制御装置の効果を記載したものにすぎない。したがって、このような本願発明の目的及び効果を達成するためには、構成〈4〉におけるNC制御装置は、「組立ヘッドの位置T0T1…Tnは機械固有のものとして座標T0'T1'…Tn'に加えてプログラム中に組込んでしまえば1個の座標系とすることができる」(4頁15行ないし18行)ものであっても差し支えないことが明白である。構成〈4〉のNC制御装置が、一般的なNC制御装置を指すことは明らかであり、原告主張のように、異別の座標系を前提として演算処理を行う装置に限定して理解しなければならないものではない。

第4  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

1  請求の原因1ないし3の事実(特許庁における手続の経緯、本願発明の特許請求の範囲の記載及び審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

2  取消事由についての判断

(1)  原告は、前記争いのない本願発明の特許請求の範囲の記載のうち、構成〈4〉に記載された「NC制御装置」は組立ヘッドの座標系の座標値とこれとは別個の座標系にある主部品上の組付位置の座標値とを演算処理してテーブルの移動量を算出するようなNC制御装置であると主張し、審決は構成〈4〉の技術的意義を正しく理解しなかったことによって、この構成を一般的なNC制御装置を規定したにすぎないとみたために本願発明の要旨を誤認した旨主張する。

ところで、本願発明の構成のうち、構成〈4〉の「多数の組立ヘッドから選択された所定の組立ヘッドの座標位置と該所定の組立ヘッドによって供給組付けされる組立部品の主部品上の組付位置の座標とから演算して、主部品上の組付位置を組立ヘッドの下方に駆動制御するNC制御装置」との記載をみるに、そこには、座標の用い方を特定する何らの記載もなく、組立ヘッドの座標位置を表示するための座標系と組立部品の主部品上の組付位置を表示するための座標系を別に設けることを規定したと認めるべき根拠は見い出せないのであるから、本願発明の構成〈4〉には、一つの座標系を前提とした一般的なNC制御装置(このようなNC制御装置による方法が本出願当時の公知の事項であったことは、のちに詳述するとおりである。)が含まれることは明らかである。このように、本願発明の特許請求の範囲の記載には、構成〈4〉のNC制御装置について2個の座標系を前提にした演算処理を行うNC制御装置に限定した記載過なく、成立に争いのない甲第2号証(本出願願書添付の明細書及び図面)によれば、のちに詳細に認定するとおり発明の詳細な説明の項には、原告が主張するように2個の座標系により演算処理を行うNC制御装置についての記載が認められるが、この記載により構成〈4〉のNC制御装置が2個の座標系により演算処理を行うNC制御装置に限定されるものと解すべき特段の事情も見い出せない。

したがって、本願発明の要旨は特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認定すべきであり、その認定の誤りをいう原告の主張は採用できない。

(2)  前掲甲第2号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の目的について「自動組立機械においては多数の組立ヘッドの選択と、選択された組立ヘッドの位置に対してプリント基板の電子部品を挿入する位置を移動制御する必要があり、従来は、組立ヘッドを所定の位置に移動又は割出して位置決めし、これに対して一つの原点を持ってXY方向に移動可能なテーブル上にプリント基板を載置してNC制御装置などで移動制御して電子部品を組付ける方法がとられていた。しかし、この方法では組立ヘッドの移動又は割出しのための駆動源と、テーブルの移動のための駆動源との双方を要し、更に組立ヘッドを所定の位置に精度良く位置決めしなければならない。本発明は、組立ヘッドを任意の位置に固定し、テーブルのみを駆動制御するようにして、選択された組立ヘッドの位置を基準にしてテーブルを駆動制御することによって上記の欠点を解消使用とするものである。」(2頁5行ないし3頁2行)と記載され、また、本願発明の効果として「本発明によれば駆動源は軽量のプリント基板を載置するテーブルをXY方向に(移動させる)駆動源、例えば小型のパルスモータのみとなり、重量物である多数個の組立ヘッドを駆動し位置決めする必要はなくなり、更にクリンチ装置を設けるとしても、全部の電子部品に使用可能な汎用の複雑なクリンチ装置を使用することなく、必要な位置に必要なだけの機能を有する簡便なクリンチ装置を設ければよいなど、自動組立機械全体の構成が非常に簡単なものになる。」(7頁4行ないし13行)と記載されていることが認められるところ、右の目的及び効果とされる事項は、結局、組立ヘッドを任意の位置に固定し、テーブルのみを駆動制御するようにしたことによって達成されることであるから、構成〈4〉におけるNC制御装置が、原告主張のように特に2個の別個の座標系を前提とする演算処理を行うNC制御装置でなければならないものでないことは明らかである。このことは、前掲甲第2号証の本願明細書に「組立ヘッドの位置T0T1…Tnは機械固有のものとして座標T0'T1'…Tn'に加えてプログラム中に組込んでしまえば1個の座標系とすることができる。」(本願明細書4頁15行ないし18行)と記載されていることから裏付けられる。したがって、目的及び効果の観からみても、本願発明の要旨を前記のように認定することには合理的な根拠があるものということができる。確かに、前掲甲第2号証によれば、前記引用に係る「1個の座標系とすることができる。」との記載の前後には、原告の援用するように、第2図の説明として、「各組立ヘッドの位置はT0、T1Tnとし、任意の機械上の原点例えば区域Aの一隅0を原点として、T0(X0Y0)、T1(X1Y1)…Tn(XnYn)と表示することができる。一方、プリント基板5内の電子部品組付位置は、テーブル3上の原点0’を基準としてT0'(X0'Y0')、T1'(X1'Y1')…Tn'(Xn'Yn')と表示される。」(4頁5行ないし12行)との記載や「このような方法(1個の座標系とする方法)では、プログラムの作成が面倒になるばかりでなく、加工機が変わった場合座標T0T1…Tn'も変わるので加工機毎にプログラムを作らなければならないと云う不都合がある。本発明は、プログラム中には、組立ヘッドの位置座標を含めずヘッド選択指令データを含めることとし、そのヘッドの位置座標は機械に付属する固有のデータとして回路中に記憶させておき、ヘッド選択指令によりその選択された組立ヘッドの位置座標とプリント基板上の電子部品組付位置座標とを演算回路により加減算してテーブルの移動値を算出するようにしている。」(4頁18行ないし5頁10行)との記載のあることが認められるが、特許請求の範囲には、すでに認定説示したとおり2個の座標系を用いること自体についての記載がないことは明らかであり、ましてや、2個の座標系の用い方、組立ヘッドの座標位置と主部品上の組付位置の座標値とからどのような演算処理を行うのか、主部品上の組付位置を組立ヘッドの下方にどのように駆動NC制御するのか記載されていないのであるから、2個の座標系を前提としたNC制御装置での演算処理によってテーブルの移動値を算出し、この移動量に基づいて主部品上の組付位置を組立ヘッドの下方に駆動制御するという事項は、2個の座標系を用いたときの一実施態様における効果であり、特許請求の範囲に記載されたとおりの要旨に基づき常に生ずる本願発明固有の効果とはいえない。したがって、本願明細書の発明の詳細な説明に、2個の座標系を用いることについての前記認定のような記載があるからといって、特許請求の範囲における構成〈4〉のNC制御装置を、原告主張のように、原点を別にする2個の座標系を前提として演算処理を行ってテーブルの移動量を算出して、主部品上の組付位置を組立ヘッドの下方に駆動制御するNC制御装置に限定して解することはできない。

(3)そうすると、審決の本願発明の要旨の認定は正当であり、審決には原告主張のような誤りはない。そして、それぞれピンを供給して基板上の異なった組付位置に組付ける多数のヘッドを有する点をのぞき第1引用例に審決認定のとおりの記載のあることは原告の認めるところであり、かつ成立に争いのない甲第5号証(特開昭51-86883号公開公報)によれば、第1引用例の装置における2つのヘッド機構部は、それぞれ駆動シリンダ、すなわち、駆動手段を具備し、かつ、固定フレームに個別に装着されているものと認められるから、2つの組立ヘッドを具備している構成を、審決が多数の組立ヘッドとして認定したうえ、この点を共通点として認定したことには誤りはない。更に、成立に争いのない甲第6号証(特開昭55-93299号公開公報)によれば、第2引用例には、審決が(a)の発明とした「XY方向にNC制御された移動可能なテーブル具備した自動組立機械」及び(b)の発明とした「それぞれ異なった組立部品を供給しそセラミック基板上の異なった組付位置に組付ける多数のピン挿入装置」も開示されていると認められる。審決の第1引用例及び第2引用例についての認定及びこれに基づく相違点1、2の認定判断には誤りはない。

3  以上のとおりであるから、その主張の点に認定判断を誤った違法があることを理由に、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7及び民事訴訟法89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 舟橋定之 裁判官 田中信義)

別紙1

〈省略〉

別紙2

〈省略〉

別紙3

〈省略〉

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